シェールガスとは？シェール革命の背景や今後について詳しく解説
シェールガスとは？シェール革命の背景や今後について詳しく解説
シェールガスは、近年の世界のエネルギー情勢を変えた資源として知られています。アメリカを中心に拡大した「シェール革命」は、エネルギー自給率の向上や原油価格への影響をもたらしました。シェールガスの特徴や影響、今後の展望について解説します。
目次
シェールガスとは？
近年、従来の天然ガスに代わる新たなエネルギー源として、注目されているのがシェールガスです。地下深くの堆積岩層に閉じ込められており、従来の天然ガスとは異なる性質を持ちます。まずは、シェールガスの概要と、採掘の難しいとされる理由を知っておきましょう。
堆積岩の中に存在する天然ガス
シェールガスは、シェール（頁岩）と呼ばれる堆積岩の内部に、閉じ込められた天然ガスです。シェールは泥や粘土が長い年月をかけて圧縮され、形成された細粒の堆積岩であり、非常に硬く気体の移動が困難です。岩の中の微細な隙間や割れ目に対し、分散してガスが閉じ込められています。
通常の天然ガスは、地中で生成された後に多孔質の貯留層へと移動・集積しますが、シェールガスは生成された場所に、そのまま閉じ込められているのが特徴です。
シェールガスの採掘が難しい理由
上記のように、シェールガスは岩の中に分散しているのに加えて、頁岩は隙間が狭く、通常の方法ではガスを効率的に取り出すことができません。採掘には高度な技術と設備が必要で、さらに多くの場合、頁岩は地下深くに埋まっているため、掘削自体が技術的に難しいという課題もあります。
そのため採掘コストが原因で、商業ベースでの開発が進まなかった事情があります。特に、従来の垂直掘削では十分な量を確保できず、投資に見合った利益を得るのが困難とされてきました。
しかしその状況は、新技術の導入によって経済性が飛躍的に向上し、本格的な採掘が可能な時代を迎えています。
シェール革命とその影響
シェールガスの商業的な採掘が本格化したことで、アメリカを中心に起きたエネルギー転換が「シェール革命」です。単なる技術革新にとどまらず、世界のエネルギー市場や地政学的なバランスにまで影響を及ぼしました。シェール革命の概要と影響について、基本的なところを知っておきましょう。
シェール革命とは？
シェール革命とは、シェールガスやシェールオイルの商業生産が技術革新で可能となり、エネルギーの供給構造が大きく変化した現象を指します。
特にアメリカでは、2000年代後半から水圧破砕法と水平掘削技術の組み合わせにより、従来は採算が取れなかったシェール層からのガスや、石油の抽出が急増しています。
その結果、アメリカのエネルギー自給率が飛躍的に向上し、かつてはエネルギー輸入国であった同国が、エネルギー輸出国へと転じる転換が起きました。こうした背景から、シェール革命は世界の経済面だけではなく、国際政治にも大きな影響を与えることになりました。
シェール革命の核となった技術
シェール革命を支えた中心的な技術は、水圧破砕法（フラッキング）と水平掘削の組み合わせです。
水圧破砕法は、シェール層の中に閉じ込められている天然ガスやオイルを取り出すために、岩を高圧で割る技術です。シェール層に水・砂・化学薬品を高圧で注入し、岩を破砕してその隙間からガスやオイルを取り出します。
また、従来の垂直に掘る方法に代わり、一定の深さまで垂直に掘削した後、地中で水平方向に掘り進める技術（水平掘削技術）の活用が進み、商業化が進展しました。
この技術により、広範囲にわたるシェール層から、効率的にガスを採掘できるようになり、従来は採算が取れなかった低品質の鉱区でも採掘が可能になっています。
エネルギー市場に与えた影響
シェール革命によって、特にアメリカはシェールガスとシェールオイルの生産量を急増させました。かつて依存していた石油や、天然ガスの輸入を大幅に減少させ、エネルギー自給率が大きく向上しています。
アメリカがエネルギーの輸入国から輸出国へと転換したことで、世界の原油供給構造も変化しました。中東の石油産油国への依存が相対的に下がり、原油価格も一時的に大幅に下落しました。
これにより、資源輸出国は経済的な打撃を受ける一方で、輸入国はエネルギーコストの低下で経済的な恩恵を受けました。さらにエネルギーの地政学的リスクも分散され、国家間のパワーバランスにも影響が及んでいます。
なお、日本もアメリカからの液化天然ガス（LNG）輸入を増加させており、エネルギーの供給源の多様化を進めています。
シェールガスの特徴は？
シェールガスは従来型の天然ガスと比べて、いくつかの特徴があります。化学組成は主にメタンですが、前述のように採掘方法や環境への影響・経済性など、さまざまな観点から独自の性質を持っており、それがメリットと課題の両面を生み出しています。それぞれ確認しておきましょう。
シェールガスのメリット
シェールガスの最大のメリットは、豊富な埋蔵量です。従来の天然ガスとは異なり、シェール層に広範囲で分散して存在するため、これまで採掘が難しいとされていた地域でも、エネルギー資源として活用できる可能性があります。
特にアメリカでは、上記のようにシェールガスの開発でエネルギー供給が安定し、輸入依存からの脱却が進んでいます。
また、国内で大量に生産できるようになったことで、天然ガス価格の抑制が進み、産業用エネルギーコストの低下にも寄与しました。結果として、製造業の国際競争力が高まり、雇用の創出にもつながるなどの波及効果を生み出しています。
シェールガスの注意点
シェールガスには多くのメリットがある一方で、エネルギーとして注意すべき点もあります。特に採掘時に使用される水圧破砕法は、大量の水資源を必要とする上、化学物質の混入による地下水汚染の懸念が指摘されています。
また、採掘の過程で発生する微細な地震や地盤の不安定化といった地質への影響も軽視できません。こうした環境リスクは、採掘場所の地元住民や環境団体からの反発を招くことがあり、開発地域では社会的な調整が必要です。
さらに、価格の変動リスクも大きな課題です。シェールガスは国際市場の需給バランスや地政学的な要因に影響されやすく、価格が急落すると採算割れに陥る可能性があります。価格変動の影響を受けやすいため、安定した事業継続には、市場動向の注視と柔軟な経営判断が求められます。
シェールガスの現状と展望
シェールガス産業は近年、コロナショックによる一時的な停滞を経験しながらも、エネルギー需要の回復により再活性化しています。
最後にパンデミックがシェールガス産業に与えた影響や、その後の市場回復プロセス、さらに技術革新と環境対応を軸とした今後の展望について確認しておきましょう。
コロナショックによる停滞
2020年に世界を襲った新型コロナウイルスの感染拡大は、シェールガス産業にも大きな打撃を与えています。都市のロックダウンや経済活動の縮小により、世界的にエネルギー需要が急減し、原油や天然ガスの価格が暴落しました。
これにより採算ラインの高いシェールガスの生産は急激に縮小し、多くの事業者が操業停止や破綻に追い込まれています。特に、アメリカの中小規模の独立系企業は、資金繰りの悪化から撤退を余儀なくされ、シェール産業全体が構造的な見直しを迫られる事態となりました。
また、感染症対策による労働力の確保難や、設備保守・操業体制の維持も難しくなり、短期的な供給能力そのものも低下しています。このように、コロナショックは一時的な価格下落にとどまらず、シェールガス事業の持続可能性や、投資の慎重化にもつながる深い影響を及ぼしました。
エネルギー需要の回復と再活性化
コロナ禍が一段落し、各国で経済活動が再開されるようになると、エネルギー需要は急速に回復しました。特に2021年以降は、工業生産や物流の回復に伴って、天然ガスの需要が世界的に高まり、価格も上昇傾向を見せています。
この動きは、シェールガス産業の再活性化を促すきっかけとなり、一時撤退していた企業の中には、再び操業を開始する動きも出てきました。
ヨーロッパでは、いまだシェールガスの開発は限定的ですが、アメリカを中心に生産量は再び増加傾向にあります。さまざまな課題は抱えているものの、今後は安定供給と価格競争力を兼ね備えたエネルギー源として、再び期待が高まるでしょう。
また、エネルギー安全保障の観点からも、特定地域への依存を避ける手段として、シェールガスの役割は今後さらに拡大すると考えられます。
シェールガス産業の今後を考えてみよう
シェールガスは、その採掘に高度な技術を要する一方で、地政学的リスクの回避やエネルギー供給の多様化を実現する手段として、今後さらに重要な役割を果たすと考えられます。
環境負荷や地下水汚染の課題はありますが、技術革新によりその軽減と安全性向上が進められています。
さらに、国全体のエネルギー戦略においても、再生可能エネルギーとのバランスの中で、現実的かつ持続可能な選択肢として、引き続き注目され続けるでしょう。
たとえシェールガス産業に関わりがなくても、多様なエネルギーの選択肢を知ることは、私たちのこれからの暮らしを考えるうえで欠かせません。電気代にも影響する可能性があるので、ぜひ興味を持って業界の動向を注視しておきましょう。
